False Island (通称偽島)のEno.1127 ルフィナの裏の人の雑記や日記のアーカイブなどをだらだらと

2010

0703
時刻はお昼を過ぎたところだろうか。島の天気は今日も快晴。
商人たちの集う取引広場は、今日もたくさんの人で賑わっている。販売を行う者の中には時折探索者も見かけ、使い古しの装備や不必要な材料、細工師なら自分の技術を売りに出したりとお金稼ぎに勤しむ者も見られた。

そんな市場をすり抜けて、あたしはいつもの場所へと向かう。先に取引を見てもいいが、見慣れたBARの扉を押し開ける。ドアベルがカランと乾いた音を店内に響かせる。
もちろんBARだから営業は夕方からだ。店内に客は一人も見当たらない。ここまではいつもと同じ・・・・お馴染みとなった島での探索の拠点、レストランBAR「BlackRose」の一光景。
「お帰りなさい、紅榴」
あたしの姿を確認した連翹は、カウンターの中から少し寂しそうな笑顔でそう出迎えてくれた。
適当に返事を返して、肩に背負っていた荷物を降ろしながら連翹からカウンター席に座る男に視線をずらす。どこか疲れた顔の竜眼が書類を相手に羽根ペンを走らせていた。彼の相手する書類の左横には、資料や書類がそれなりの高さに積み上げられている。この様子を見ていると、心底デスクワークに回らなくてよかったと思ってしまう。ほぼ毎日こんな書類とお友達なんかになった日には、あたしだったら数日で胃に穴が開いてしまうんじゃないか。
「ただいま」
そう言って、書類とは反対側の方向。竜眼の隣のカウンター席に腰掛けて、あたしは彼の顔を覗き込んだ。あまり寝ていないのだろうか。注視しないと気づけないほどではあるが、やや目が充血している。
「おかえりなさい。15隊の報告書を書いておいて下さいね」
それなのに開口一番、これだ。仕事熱心なのは良い事だが、こいつは時々休むことを忘れている気がする。
(たった今戻ってきたばかりなのに書類とにらめっこなんて面倒だな)
心の中で呟いて、小さく溜息を漏らし頭を掻く。カウンターの上に肘をついたところで、いきなり目の前に紙が降ってきた。その内容を見て、あたしはうんざりする。
「面倒だから後でなんて思ってるんでしょうが、そんなことはさせませんよ。夕飯までには書いておいて下さい」
書面から目を離さずに淡々と竜眼は告げた。眼鏡が少しずれたのか、ブリッジを左手で押し上げて再び羽根ペンを滑らせる。
「ところで・・・・紅榴はもう身体は大丈夫なの?」
温かい紅茶の入ったカップをあたしの前に置いて、連翹が心配そうな顔で尋ねてきた。荷物からマーマレードジャムを取り出して蓋を開ける。残りも少なくなっていたので、あたしはジャムをカップへティースプーンでかき出して入れた。空っぽになったジャム缶を連翹に差し出しながら彼女の言葉に答える。
「ん、貧血のことならぼちぼち・・・・かな。それよりもそれが切っ掛けで能力・・・・というか、うーん・・・・」
「八重歯も前より伸びましたしね」
「っ?! ・・・・・・・・・・お前いつの間に見たんだ?」
相変わらず書面から目を離さずに作業を続ける竜眼がとんでもないことを言って会話に加わってきたので、あたしは立ちあがり彼に視線を向けた。一呼吸おいて羽根ペンを書類の上に倒すと、彼はすっかり冷めきってしまっている珈琲を手にとって一口含んだ。
「見てませんよ。前に話を聞いた限りですが、そろそろではないかと思っていましたから。かまをかけてみました。貴女のその様子では図星のようですがね。・・・・・座ったらどうですか?」
涼しい顔で言う。いつもよりも疲れている雰囲気が加わって、その声はいつも以上に無感情だ。あたしはしぶしぶとカウンター席に戻ると、肘をついて竜眼から顔を背ける。視界の端で正面に立っている連翹があたしたちの様子に苦笑いをしているのが見えた。
「まぁ、その話は後にしましょう。それよりも例のお客様がいらっしゃってますよ」
竜眼が手を伸ばして宿の1階部屋のほうを指したので、あたしは眉を顰めて習うようにそちらへ視線を移す。だからと言ってその『お客様』が見えるわけではないが、確かに指した方向から人の気配は感じ取れた。
「やけに早くないか?先日連絡してから6日しか経ってないはずだけど」
「言わずもがな、ですよ」
一応、尋ねてみたものの、予想通りの彼の一言に額を抑える。連翹が寂しそうな笑顔で出迎えてくれた理由も納得いったわ。大きく息を吐いて、程よく冷めた紅茶のカップを手に取るとあたしはそれを一気に飲み干した。マーマレードの甘い苦みが口の中に広がり、苦い気持ちと一緒に飲みこんだ。
「先日の首と証拠品の短剣は理由も話して渡しておきましたので、そちらの報酬は受け取っていますよ」
「やっぱ報酬は減額だったか?」
「いえ・・・・・逆に増えましたね。ギルドとしては両方クリアできると思っていなかったようで甚く喜んでましたよ」
「ちなみに額は?」
「金100枚」
「・・・・・・・・・・は?」
予想外・・・・というか、法外な値段にあたしは開いた口がふさがらなかった。いや、少ないわけではなく、むしろその逆で。修道院が丸ごと買えるわけではないが、数十年は安泰くらいの金額だ。
「まぁ、マージンや経費込で50%は戴きますが・・・・・50枚でも十分なくらいでしょう?」
「そこまで多いと逆に嫌な予感がするな・・・・なんか裏がありそうで」
「彼の国は軍事国家ですから。物価もこちらよりも相当高いですし、依頼内容と照らし合わせると100でも安いくらいですよ」
「はぁ・・・・・金持ち国家ってわけか」
チェスカの性格を考えても、彼の国はお金に困るなんてことの少ない国なのかもしれないと、今更ながらにチェスカが生まれて育ってきた国の様を想像する。
・・・・・・・・・・・・・うん、なんかわからないけどイラっときた。やっぱりあたしは貴族はあまり好きじゃない。それでもこの島で会ったシュノーンなんかは本当に今まで会った貴族とはだいぶ雰囲気も違うし。最近は少しマシになったほうだと思うが。
「で、50枚はどうします?」
聞かれて、あたしは宙に視線を彷徨わせた。しばし考えて、
「連翹に4枚。あたしに1枚。残り45枚は修道院に全部送ってくれ」
そう答える。
そんなあたしの答えを聞いて竜眼がすごく嫌そうな顔をして言い返した。
「この額を、ですか?貴女馬鹿ですか?こんな額、怪しいってことくらい解らないのですか?」
彼の言うことももっともだ。この額がいきなり送られてきたら、喜ぶ以前にまず疑うだろう。とはいえ一枚ずつ送るのも面倒だし・・・・どうしたものか。
唯一、修道院であたしの素性を知っているラインに送れば、解ってくれるとは思うけど・・・・・。
「私が一週間に一回2枚ずつ送ろうか?」
頭を捻っていると、新しく紅茶を入れなおしてくれた連翹がにこりと微笑んで言った。
「ルフィナにとっては修道院も家族なんでしょ?探索も続けるなら暇もないだろうし・・・・」
彼女はどこか懐かしむように瞼を伏せる。そういえば連翹も昔は教会で手伝いをしていたって言っていたっけ。たしか家族も恋人も戦争で失ってここに来たと、そんなことを思い出した。ギルドの中ではそれなりに強いほうにあたる連翹だけど、なんとなく盗賊には向いてないといつも思う。それなのにここに居るのは、やっぱりここが家族だからなのかな。
「いや・・・・・・やっぱり自分で渡すのが一番かな・・・・・・うん、ありがとう連翹。気持ちだけもらっておくよ」
頼ろうかとも考えたけど、『修道院』なんて昔を思い出してしまうのではないかと思ってやめた。
「さてと・・・・・」
そこまで言って荷物を纏める。実のところ、いろいろ限界だったのでとにかく仮眠を取りたかった。呆れて書類に向き直っていた竜眼が口を開く。
「そういえば・・・・肝心のシュバルツはどうしたのですか?」
聞かれて、荷物を纏めていた手を止める。一瞬、連翹のお皿を拭く手も止まったのに気がついたが・・・・まぁ流しておこう。ひとつため息をついて、荷物を纏める手を再び動かす。あまり長話はしたくないので、先ほどよりも早めに。
「大丈夫だよ。そのうち来る。・・・・・タダで泊まれるのなんてここしかないからな」
「引き渡しはどうしますか?」
「悪いけど、竜眼に任せるよ。まだ身体も本調子じゃないんだ。すぐにでも倒れたい」
目を合わせずに彼の問いに答える。そうして纏め終わると、カウンター席から立ち上がり、二階へ続く階段に足をかけた。
「怖いんですか?引き渡した時のシュバルツに会うのが」
声のトーンを少し落として再び竜眼が尋ねたのであたしは足を止めた。怖いわけではない。それは断言できる。でも・・・・・少しだけ息苦しくなり、気づかれないように深呼吸をすると、あたしは竜眼にあいまいな返事をした。
「さてな?あたしより連翹に聞いたらどうだ?」
我ながら意地が悪い上に自分勝手だ。自己回避のために連翹を羊にすると、続きを聞かれるのが面倒であたしは足早に自室へと戻る。鍵を閉めて、カーテンを閉め、服を脱いでベッドに横たわる。そのまま意識を手放すまでにはそう時間はかからなかった。
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False IslandのEno.1127 ルフィナの裏の人。
9月26日生まれの天秤座のO型。耳かきをこよなく愛する海洋生物。マイペースで気分屋な風来坊。お酒好きだが煙草は苦手。

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