False Island (通称偽島)のEno.1127 ルフィナの裏の人の雑記や日記のアーカイブなどをだらだらと

2010

0705
『この先のようですね』
肩に乗る青い小竜が壁の先を見透かすように言う。あたしは蒼白い光を帯びる魔女短剣を片手に何も言わず頷くと、小竜の告げた眼前の壁に手を伸ばし、素人でもわかるような仕掛けの隠し扉を押し開いて、急ぎ足で隠し扉を潜り抜けた。


事の顛末はラスと祭りに出掛けた日の真夜中・・・・いや、次の日の未明の朝と言ったほうがいいのだろうか。光が差したばかりで空が白く染まり始めた、そんな時間帯。何かが破裂するような音と微かに鼻を掠めた血の匂いにあたしは勢いよく起き上がった。
ベッドのすぐ横に置いておいたクローグローブを手にとり、音のした方であるホールへ続く階段を駆け下りる。ランプの付いていないホール。半壊したいくつかの机と椅子。大きく陥没して開いたままになっている入り口のドア。外れて床に落ち、拉げてしまったドアベル。・・・・入口の丁度反対側の壁に凭れて左腕を押さえた竜眼が開いたドアの先を睨み付けていた。
「竜眼、何があった?!」
声をかけながら彼に駆け寄る。竜眼はあたしのほうへ視線を向けると、あたしから跳ねるように離れてこちらへ赤く濡れた右手を翳した。右手に攻撃魔術と思われる蒼い光が収束していく。その薄らとした光に照らされた彼の左腕には三本並んだ傷からは血液が滴り、白いケープを染めていた。
様子のおかしい彼にあたしは足を止めて構える。
「・・・・私の名前は何ですか?」
「は?」
突拍子も無い質問。敵意を剥き出しの竜眼。
「余計なことを言わず答えなさい。私の名前は何ですか?」
彼は質問を繰り返した。
下手な答えを言えば躊躇いも無く攻撃するだろう彼の威圧感に、あたしは何時でも避けられるように左足を半歩退いて、
「・・・・・『リシア』。何があったかは解らないが、これでいいのか?」
少し考えた後にギルドネームの『竜眼』ではない彼の名前を答える。
場に降りるは暫しの沈黙。その間は恐らく数秒と短かったはずだが、何故だかすごく長い時間牽制の体勢を取っていたようにも思えた。決して答えは間違っていないはずなのに、妙な不安に駆られる。
そうして竜眼が安堵の溜息をつくと、彼の右手に集まっていた蒼光は昨日見た蛍のように霧散して消えた。再び暗くなるダイニングホール。外からの月明かりに机やら椅子やらの残骸が照らされて不気味な雰囲気を醸し出す。竜眼が右手を下すのを確認して、傍まで駆け寄った。無事だったカウンターの上に常置しているチェイサー用の水差しを手に取り、グラス拭き用のクロスを濡らして竜眼の左腕を引く。
思ったよりも深い傷口は爪か何かで引き裂かれたかのようで、自分のクローグローブと重なって心臓が僅かに跳ねた。脳裏に浮かぶ過去の過ちを小さく息を吐いて振り払い、クロスを竜眼の傷口へあてる。彼の表情が苦痛に歪んで反射的に身を引いたが、あたしはしっかりと腕を掴んでクロスを固定した。
「もう少し丁寧に扱って頂けますか?貴女と違って私はデリケートなんですから」
「それだけ口が回るなら心配無いな。少し深いけど・・・・これだけ派手にやってこの傷なら軽い方だよ」
「誰にものを言ってるんですか」
まったく、ああ言えばこう言う。不満そうな竜眼に苦笑して治癒術の聖言を呟き、傷口に手を翳す。先程の竜眼の青光とは違う白い光が顔を照らし出す。徐々に塞がっていく傷口を眺めながら、彼は小さく溜息をついて瞼を閉じた。
「貴女に傷つけられて、貴女に治してもらうなんて皮肉ですね」
「・・・・・はい?」
「この傷は貴女にやられた、と言ってるんです」
「どういうこと?」
手を翳したまま傷口に向けていた視線を竜眼の顔へと上げる。彼は横に首を振ると赤く染まったケープをカウンターの上へと置いて口を開いた。
「恐らく、シェイプシフターか何かだと思いますが・・・・遺跡の魔物か何かは知りませんが、術が弾かれてしまって手も足も出ませんでしたよ」
呆れたような彼の言葉は普段通りに努めているが、端々に表れる苛立ちにあたしは何も言えず視線を再び傷口に落とした。

竜眼の深かった傷もある程度塞がった頃だろうか。
こちらへ向かう足音が聞こえてあたしと竜眼は音を立てずに身構えた。

────こつ、こつ、こつ。

早くも無く、遅くも無い靴音が段々と近づいてくる。足音は二つ。一つは靴の音だが、もう一つは・・・少し軽くて速い。恐らく小さな子供位の体重と速度の音だ。外していたグローブを再び手に嵌めて、開いたままのドアの外をじっと見据える。

────こつ、こつ、こつ。

ここは大きな宿場通り。もしかしたらただの通りすがりなら越したことは無いが、万が一のこともある。
竜眼が歯噛みをしながら印を切るために手を剣の形に模るが、その額には薄らと汗が浮かんでいた。

────こつ、こつ、こつ・・・・・こつ。

足音は入口の前で止まり、姿を現す。一人は・・・・特徴的な大きな黒翼と流れるような長い黒髪に雑じる銀髪。
この島で出会ったさなぎや影丸と似た”わふく”を着た痩身のあたしの見知った女性。もう一人は金と蒼のオッドアイに癖っ毛の黒い長髪から同色の猫の耳とこれまた同色の長い尻尾・・・・・2本??・・・・男の子・・・かな?多分。この子も”わふく”っぽいものを着ていて、襟からは傷跡が覗いている。
小さな猫の子は入口からあたしの姿を見るなり、指差して声を上げた。
「っとと?あれ・・・さっきの紅い髪のねーちゃん。てっきり遺跡内へ走ってったもんだと思ってたんだが」
「流石にそれは見間違いだったんじゃないか?鳥衣。明け方とは言ってもまだ暗いし・・・・」
「俺、一応猫又だから夜行性なんだけど・・・・見間違えたりするかよ」
困ったように頬を掻く鳥衣と呼ばれた少年。そこまで聞いてあたしは身構えたままの竜眼を片手で制すると、少年と会話する女性の名前を呼んだ。
「清明。なんでここに?」
「あぁ、ルフィナさん。御無事で何よりです」
僅かに微笑んで胸をなでおろす清明。あたしの知り合いだと判り、竜眼は一つ溜息をつくと指を鳴らして一番近くのランプに蒼い火を灯した。数秒だけホールは蒼い光で照らされていたが、それもランプの灯が赤へ変わると共にいつもの雰囲気を醸し出す。
「いえ、彼・・・・鳥衣が魂を引連れたルフィナさんを見たと言っていたのでまさかと思い来てみたのですが・・・・
・・・・・凄い有様ですね。お怪我は?」
清明は部屋が明るくなったことでより露見した惨劇の跡を一瞥すると心配そうに尋ねる。
「見ての通り、なんともないよ」
あたしは苦笑いを浮かべながら首を横に振り、小さく肩を竦めて答えた。
「それよりも・・・・魂を連れたってどういうことだ?」
間をおいて、先ほどよりも声のトーンを落として清明に尋ねる。彼女は困ったように鳥衣の方へ顔を向ける。横に立っていた少年はきょろきょろとホール内を見回していたが、何かに気がついたようにじっとあたしの方を見つめてきた。あたしは訳が分からず、訝しげに首をかしげる。ふと、視線の方向があたしの顔ではなく、自分の背後にあるへや扉の先だということに気がついて息をのんだ。
「まさか・・・・・・!」
あたしと竜眼はお互いに顔を見合わせると、慌てて背後の扉を押し開き連翹の部屋へと駆け出す。勢いよく開けた部屋の扉の先には人形のように壁に凭れ掛った連翹がそこに居た。駆け寄り、動かない連翹の手を取る。規則的に刻む脈。とくに目立った外傷も、血の匂いもしない。身体は無事のようだった。だが、薄く開いた瞳はなにも映さず、四肢には力も入っていない。
「抜け殻だな。魂が此処に無い」
後を追ってきた鳥衣が苦い表情で告げる。

───どうしてこうなった?

自分と同じ姿の者に襲われた竜眼。魂を持ち去られた連翹。心当たりが無いとは言わない。こんな仕事をやっているのだから恨まれることがあってもおかしくは無いわけで。
一番近いところでチェスカの依頼の件が有力だが・・・・・
「あれとは無関係だと思いますよ。魔力の質がソレ違いましたから」
あたしの思考を先読んだ竜眼が首を横に振って告げた。何も言えずに竜眼の顔を見上げて、目を伏せる。あたしは人形のような連翹を抱きかかえて、彼女をベッドへと寝かせて彼女の瞼を手で閉じた。
「・・・・・・・どうすればいい?参謀」
連翹へと視線を落したまま、後に立つ竜眼へ尋ねる。
「もちろん、奪われたのなら奪い返せばいいだけの話ですが・・・・奪い返したとしてもまともに戻せるかどうか・・・・・魔力の質、と先ほど説明しましたが・・・・私達が使っている魔術とは術式が違うというか・・・・異質なんですよ」
苦く返ってきた答えは希望の見えないもので、あたしは拳を握りしめて唇を噛んだ。この島へ来てから長く尖ってしまった八重歯が刺さり、口の中に鉄の味が広がる。
「・・・・・恐らく、離魂呪の一種だと思います。まだ、魂が糸で繋がってますから急げば大丈夫だと思いますよ」
意外なところからの言葉にあたしと竜眼は声の主へと振り返った。希望があると告げた清明は、一つ頷いてあたしの方へと顔を向ける。彼女はにこりと静かに微笑むと、手を差し出して続きを紡いだ。
「俺が以前ルフィナさんに作った短剣、貸して下さい。御魂鎮めの呪式を施しますよ」


短剣の示す隠し扉の先は暗く、気を抜くと呑み込まれてしまいそうなほど不気味だった。
ただ真っ直ぐ、歩みを進める。
そんな中、見慣れた白猫の姿が目に留まり足を止めた。


─── 拉げたドアに掛る小さな札。「Close」と記されたそれが風に揺れてカタリと音を鳴らす。
Post your Comment
Name:
Title:
Font:
Mail:
URL:
Comment:
Pass: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
プロフィール
HN:
海月。
HP:
性別:
女性
自己紹介:
False IslandのEno.1127 ルフィナの裏の人。
9月26日生まれの天秤座のO型。耳かきをこよなく愛する海洋生物。マイペースで気分屋な風来坊。お酒好きだが煙草は苦手。

ついったん
カレンダー
08 2010/09 10
S M T W T F S
1 2 3
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30
ブックマ~ク
お世話になってます(`・ω・)ノ
ブログ内検索
カウンター
ブログの親元
使いやすいです。お世話様です。
忍者ブログ [PR]iphone 転職 IT * Template by TMP